戦闘生理学
<Combat Physiology>

情 動

プレッシャーの源、情動回路

五感で入力された圏は、そのエネルギー量によって、感情に投影されたり、情動に出たりします。
情動とは瞬時性から、どうしても押さえきれない湧き立つような内心的感覚で、感情とは普段の日常的な中にある感覚です。
プレッシャー的情動の転換は大きく分けて四つあり、最後のCへ移行してしまう流れの原因でもあります。

(1)瞬時期

道を歩いていて、突然ヘビに出会ったときの瞬間、鳥肌が立ち、一瞬体が固まるかのような瞬時。

戦闘時、突然攻撃をされた時に、戦闘トランス状態はナチュラルに起こることが知られています。
催眠などのトランスは驚きから入るものが、一番簡単に早くかかることが知られています。
街の喧嘩もこれに当てはまります。
いきなり喧嘩を売られ、勝手に動きが始まる人と、固まってしまう人。
生死にかかわらないわけですから、ナチュラルトランスにはならないでしょう。
しかし情動コントロールは瞬時性に対しても、観念から変えて行くため、即戦闘トランスに入ることができます。
試合にはこれはあてはまりません。試合が決まり時間が経ち、瞬時性情動が起こる起源がないからです。
この場合は、順を追って体勢を整えて行き、試合場で戦闘トランスに入れば良いのです。

(2)興奮期

興奮の中にある判断の始まりです。
逃走しようか戦おうかと必死になる時期です。
逃走か闘争かの原点となります。

自己コントロールを行う、一番重要な時期ともいえます。
(1)から固まって何もできない人もいれば、勝手に戦闘トランスに入る者も、逃げる者もいます。
この時期から戦うことは、(1)の情動を引き継ぐわけですから、まず内心的情動を、冷静な波動へ転回しなくてはなりません。
「何い!へびコイツ」と向かって行くには、一瞬の転換でも興奮の中で「この蛇なら勝てそう」という、ナチュラルな転回期があるからです。
よほどの馬鹿でないなら、ライオンにそうはしないでしょう。
しかし試合のプレッシャーは、ライオンと戦うことと同じことです。
試合だけではなく、よくある世の中のプレッシャーも同じ原理なのです。
このとき無意識に入っていけば、重圧を逃れるトランス状態が表れ、冷静にかつ、ライオンと戦う観念も現れて来ます。
また、お祈りをして「神が必ず助けてくれる」と信じきる力は、無意識への移行とも同じようなものです。

(3)重圧期

もう一つの情動は、大きな問題があるとき、重圧的な感覚が、常に沸いて来る時期です。

問題の定義は決まっていません。お金であったり、人間関係であったり、将来性であったり、恋愛もそうです。
戦いが決まっている、戦いの前の心境も同じです。
すべて重圧の回路は共通しているのです。
情動波形は退波を背負ったまま、上へは上がっていきません。
無派へ転回しなければ、どんどん窮波へ、追い込まれていくことになります。
試合の場合は、退波(退く心)を背負うことで負けが決まるようなものです。

(4)変調期

重圧期が慢性化し長いと、免疫の抵抗力が無くなり、様々な障害を起こすことになります。

掣圏真陰流は(1)を強くすることから始まります。その強さは、情動回路を強くしていくメカニズムにより、達成されるのです。
戦闘生理学は(1)から(3)に起こる、心のヒビきをコントロールします。

情動回路とは川に似ています。普段の流れは感情的。大雨が降って川に水が流れ込む状態が情動です。
水の強さは心のヒビきとなり、小さな川幅で水があふれることは、心を破壊します。
情動回路を強くするというのは、その川幅を大きくし、水を流しやすくすることに似ています。
余裕を持った川は、観念を変えてしまいやすくなります。
心のヒビキを無くし、観念を変えると人は変わります。
無意識が情動をコントロールするようになるのが「慣れ」であり、安定はその慣れ(川幅)を作り上げるということです。
戦闘生理学はこの回路を変化させる技術です。